今このひとに会いたい…P2

Unir ヘッドバリスタ 山本 知子さん

誰をも「シアワセ」にしてくれるコーヒー

 

「飲んでみましょうね!」と、エスプレッソマシンの前に立った山本さん。ほんの少し、キリっとお顔も引き締まり、コーヒー豆をマシンの中へ。ほわんと魅惑的な香りが広がります。この香りにまず「アー、美味しいそう!」とハートを掴まれ、軽やかに動く山本さんの手さばきにまた魅了されます。「ハイ、出来ましたよ」。フワフワのミルクに描かれたチューリップ。見た目のオシャレさにもキュンときますが、一口いただいく…、「シアワセ~」。美味しさを表現するのは本当に難しいものですが、日本一の称号を獲得した技は、万人を「シアワセ」にしてくれる、それは間違いありません。

 山本さんは、バリスタになって12年。これまでも何度もジャパンバリスタチャンピオンシップ(以降、JBCと記載)に出場しており、ファイナリストの常連でした。そして今回、念願の頂点へ! 9 月26日~27日に東京ビックサイトで開催された2018年大会でみごと優勝を果たしました。2019年4月、米国ボストンで開催されるワールドバリスタチャンピオンシップ(以降、WBCと記載)に、日本代表として出場されます。世界60か国、各国からたった1名、選抜されたバリスタがその技を競い合うのがWBC。コーヒー界のオリンピックともいえる権威ある大会です。

 

 

バリスタの競技会は人間ドラマ

 

 バリスタの競技会であるJBCは、スペシャルティコーヒーのベーシックな飲み方である「エスプレッソ」、牛乳を加えた「ミルクビバレッジ」、エスプレッソをベースにした創作ドリンク「シグネチャービバレッジ」の三種類のコーヒーを淹れ、その味わいや技術、そして、審査員にサーブしながら行うプレゼンテーションの完成度などで、総合的に評価されます。

 競技会の模様がYouTubeで見ることができたのですが、これが、面白い! テキパキとした手さばきやアートのような作品の美しさを観る、それも楽しみではありますが、それ以上に、競技者の工夫を凝らしたプレゼンテーションが面白いのです。どんな豆を、どんな方法で淹れ、それはどんな味わいを引き出すためなのか…、手を動かし続けながら、まさに今、目の前にいるお客様に接客しているかのように語りかけます。どんなコーヒーをどんな思いで淹れているのか、「おもてなしの心」を表現し、それが伝わっているか、それが問われる競技にも思えました。まさに、15分間の人間ドラマのようです。演じるのは、ファイナリストの6名。ヒリヒリするような緊張感に包まれた競技会場であったことは容易に想像できますが、それぞれ工夫を凝らし、熱く語るその語り口はなめらかで、さずが頂点を目指す方々です。そんな中でも、笑顔を絶やすことなく15分の「山本知子ドラマ」を演じきった山本さんが、勝ち取った日本一の称号でした。

 

 

競技会での体験は全てお店で活かされる

 

 「この競技会に出場しているのは、賞を取ることだけが目的ではないんです。競技会でどうやったら点数を取れるのかを考えることが、イコール、店頭に立ったバリスタに必要なスキルなんですよ」と山本さん。

 美味しいコーヒーを淹れること、無駄のない所作で仕事の効率を上げること、お客様に楽しんでいただけるようにコミュニケーション力を鍛えることなど、確かに、競技会の15分間にそういったバリスタとしてのスキルが凝縮されていました。「美味しさについても、ただ単に「好みというものではなく、JBCには客観的に評価する基準が明確にあり、それに基づき焙煎やカッピング(コーヒー業界用語ですが、テイスティングのことをこう呼ぶそうです)の技術を磨くことが必要なのだと。「そういうスキルが伴わないと競技会で成績は残せませんし、お店でも常に美味しいコーヒーをお客様に提供することが出来ないですからね」と山本さん。ウニールでは、山本さんだけでなく、店頭に立つバリスタたちは競技会に果敢にチャレンジし、上位の成績を残されています。

 そして、山本さんが今回テーマとしたのは、「コーヒーが苦手な人にスペシャルティコーヒーの美味しさを知ってもらう」。これまでは、スペシャルティコーヒーの素晴らしさを伝えることを使命に臨んできた山本さんですが、コーヒー好きの方にはずいぶんそれは認知されてきたという実感があり、「じゃあ、今回は、コーヒーを好きではない人にも美味しさを伝えたいと思ったんです」と。「わあ、そのコーヒー、私も飲みたい! と思う人はきっとたくさんいるでしょうね」と思わず返すと、「もちろん、お店に来ていただければ飲んでいただけますよ。 その豆の仕入れ量にもよりますが、競技会で使う豆はお客様にお出していますし、販売もしています」と。山本さんが店頭に立つここ本店では、日本一に輝いた、そのエスプレッソコーヒー味わうこともできるのです。なんて、シアワセなこと。

 

 

日本一のバリスタがいる「日常づかいのお店」という贅沢

 

ウニールは、乙訓に暮らす人なら知らない人はいない有名店だとは思いますが―。

 2006年に、コーヒーの中で最も高品質とされるスペシャルティコーヒーのみを取り扱う自家焙煎所として長岡京市で開店しました。オーナーであり、山本さんのお連れ合いである山本尚さんこそが、産地からコーヒー豆を買い付け、自家焙煎し、販売するというスタイルで、全国的にも知られていなかった「スペシャルティコーヒー」の存在を広めた立役者です。スペシャルティコーヒーは、全国的にはその美味しさで注目され、扱うお店もずいぶん増えました。今や、そのカリスマ的存在となった尚さんですが、12年前のあの頃は、小さなカフェを開業する時でも、オーナー自ら美味しいコーヒーの淹れ方をレクチャーしてくださったものです。ですから、乙訓地域には、ウニールのコーヒー豆で淹れた美味しいコーヒーが飲めるカフェがたくさんあります。

 そんな尚さんと二人で始めたウニール1号店は、駅前ではなく住宅街の中。尚さんのご実家だったということもありますが、山本さんは「コーヒーを飲むって毎日のこと。日常ですよね。だから、人が暮らす場所にお店を作りたかったんです」と。それが、今の今里本店にもつながるウニールのお店へのこだわりなのです。大阪の梅田や四条河原町など街中にお店も展開していますが、でも、本店は暮らすまちの中に置きたい。だから、長岡京市今里でした。

 広い店舗の道路沿いのウインドウからは、大きなコーヒー豆の麻袋が積まれ、大きな焙煎機も見えます。お店に入ると、正面はトレーニングルーム、左手にコーヒー豆やスイーツの販売コーナーがあり、右手がカフェになります。広々とした空間に40席ほどの席があり、そのまた奥にエスプレッソマシン。まさに、ウニールのすべてが詰まった場所です。

コーヒーをゆったりとした空間で味わうのはもちろん王道ですが、ランチの人気も外せません! 素材にこだわり丁寧に作られているのは、コーヒーと同じ。「私が、こんなお昼ご飯たべたいなぁと思うものをお出ししています」と山本さん。お野菜は尚さんのご両親が育てた野菜だそうです。ランチの最後には、もちろんスペシャルティコーヒーをいただきます。乙訓に暮らすシアワセは、こんな普段の日のランチタイムの豊かさにあるのかもしれません。

 さあ、4月にひかえた世界大会。技術面はもちろん、英語でのプレゼンテーションの練習に日々明け暮れているといいます。母国語ではない言葉でのプレゼンテーションですから、どう考えても厳しい条件です。でも、山本さんは、「競技会は、F1レースみたいなものなんです。タイヤを替える人がいて、車の整備をする人がいて…、最後にレーサーがいる。チームプレーなんですね。私が世界という舞台に立てたのは、サポートしてくれるスタッフがいたからこそ。頑張るしかありませんね! この人にコーヒーを淹れてもらいたいなと思っていただけるプレゼンテーションをしてきます」と世界大会への思いを語ってくれました。

 さあ、大会までカウントダウン。乙訓から世界チャンピオンが誕生する、という朗報が楽しみです。

(松野 敬子)

 


スペシャルティコーヒーとは?
 栽培管理、収穫、生産処理、選別そして品質管理が適正にされ、欠点豆の混入が極めて少ない生豆を、適切な輸送と保管により劣化のない状態で焙煎され、さらに、適切な抽出がなされ、カップに生産地の特徴的な素晴らしい風味特性が表現される「高品質で特徴的な味わいを持つコーヒー」です。
 ウニールでは、そんなスペシャルティコーヒーの中でも、コンテストで受賞した特別な豆やトップクオリティーのものにこだわりほとんどの豆を直接現地で買付けています。さらに、最先端の焙煎機を使用する事で、豆本来が持つ風味をより引き出しています。
 山本尚オーナーは、豆の品質を審査するカップ オブ エクセレンス(COE)の国際審査員でもあります。

 

<インフォメーション>
ウニール本店
● 長岡京市今里4-11-1 / P あり
● 営業時間
 コーヒー豆販売/ 10:00 ~ 19:00
 カフェ/ 10:00 ~ 18:00 (17:30 L.O.) 
 ランチタイムは11:30 ~ 14:30 (※売切次第終了)
● 定休日: 水曜日、第三火曜日
☎ 075-956-0117( ※ランチは前日までに電話での予約が可能)
長岡天神店 (テイクアウト・店内での立ち飲みドリンク)
● 長岡京市天神1-3-21 / P あり
● 営業時間:10:00 ~ 19:00 ● 定休日: 水曜日
☎ 075-954-7001

 

 

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