向日市で一番元気な女性…P2
京都向日市激辛商店街広報 松本美由紀さん
松本美由紀、あなたはナニモノ?
「私のやっていることが、誰かの喜びにつながっていればって思っているんですよ!」と、クリクリ回る目を輝かせて笑います。
「派手な舞台で、派手に活躍している、目立ちたがりなお姉さん」だと思っている人もいるかもしれませんが、素顔の彼女は、実に地道な活動を、地道に積み重ねている真面目なまちづくりの担い手でした。向日市の空き店舗で時折開催されているフリーマーケットをのぞけば、まちのおばさま方から「美由紀ちゃん、これあんた似合うんちゃう~」と古着のワンピースを選んでもらっている彼女がおり、乙訓地域会議などという硬派なまちづくり会議では地域住民と行政との連携の必要性を熱く語る彼女がいます。難聴者のためのボランティア・要約筆記を学ぶ講座にもどんなに忙しくてもキチンと通う、真面目な彼女もいました。2 年前に結婚した優しい旦那様に、手作りお弁当もちゃんと作っています。それが、彼女の日常の姿。そして、そんな地域の活動で出会う人たちから、それはそれは娘のように愛されているのが「松本美由紀」です。
「ありがとう!」と言われることが原動力
仕事はといえば、企業コンサルティングやイベントPRブランディングを請け負う会社を昨年、起業しています。1年前の今ごろは、この会社をどんな風に育てていこうかと夢を語っていた彼女でしたが、今は少~し違ってきたようです。
「私ね、お金をもらうのが苦手なんですよ。コンサルティングという仕事は向いてないかも」と笑います。激辛商店街の広報担当としての実績は、前述のとおり。アイデア溢れる企画を考え、マスコミを効果的に利用する、それは見事な手腕です。この実績を買われ、講演会やセミナー依頼も多数舞い込みました。向日町競輪場をより市民に開かれた競輪場に生まれ変わらせる広報活動にも取り組んでいます。ただ、それを仕事として請け負った時、「この金額だとここまでしか出来ない」とか「この金額に見合う範囲で」というようなスタンスになることが「なんか
違う」と思ったのだとか。お金という対価を得ることよりも、彼女にとって価値があると感じるのは、「ありがとう!」と言われることなのだと。
「『ヘアドネージュ』って知っていますか? 」と、唐突に尋ねられました。ヘアドネージュとは、小児がんや白血病、先天性の無毛症などで、髪の毛を失った子どもたちに人毛の医療用ウィッグを無償提供している活動なんだそうです。30㎝以上髪の毛を伸ばしたら寄付することができます。そして、地域のある女性から、30㎝に伸ばした髪の毛を切りにいく美容院に同行して欲しいと乞われたと言いました。「おばちゃんがね、『私初めて、人のために出来ることを見つけたんよ。髪の毛を寄付しようと思うの。この活動をたくさんの人に知ってもらいたいから、美由紀ちゃん、レポートして』って言ってくれたんです。美容院に同行して、写真をたくさん撮ってfacebookに発信して欲しいって。こんな風に、自分で発信するのが苦手だけど『伝えたい思い』のある人の広報を代行する、そういうことがしたいんですよ。そんなんに対価を払っていうのはヘンでしょう。柿やリンゴをもらって、ありがとう! それで十分なんですよ」と。
会社勤めをしていた時代、美由紀さんは、日々の暮らしの困りごとはたいてい「サービスを買う」ことで解消していたと言います。それが、仕事を辞めて、地域に目を向け、地域の人の輪の中に飛び込んでみたら、暮らしの困りごとは地域の人が助けてくれることで、大半が解消できてしまったと。「最近、貰い物が上手くなったんですよ」とケラケラと笑い、こんな風に言葉を続けました。
「助ける人がいて、助けてもらう人がいる。助けてもらえることはもちろん幸せなんだけど、実は、助けた人も幸せでしょう。そんな風に、地域で助けたり、助けられたりすれば、お金ってあんまりいらないんじゃないかと思うんですよね」と。
子育てだって、子づくりだって、地域のみんなで
そして、その最たるものが、美由紀さんの子づくりプロジェクト~
ある日、激辛商店街のおばさま方に呼び出された美由紀さん。
「美由紀ちゃん、色々やりたいことがあるのは分かってるよ。せやけど、子ども産むにはもうギリギリやろ。産むことは美由紀ちゃん、アンタにしかできひんから、ともかく産んで! そしたら、育てるのは私らが手伝うから」。
結婚して2年が過ぎ、30代の後半になっていた美由紀さん。子どもを諦めたわけではなかったけれど、「まあ、子どものいない人生もありかなぁ」と思い始めていた頃でした。聞き様によっては、セクハラか?!となりそうな場面でしょうが、美由紀さんは「嬉しかった!」と。
彼女の最近のfacebookには、実況中継ばりの妊活の記事が掲載されるようになりました。その背景には、こんなエピソードがあったのです。実際に、不妊治療を始めた彼女の通院に、寄り添ってくれるのは地域の女性たち。ある人は治療を終えた彼女を自宅まで送りとどけ、別の人は「美味しいもの食べて、ゆっくり休みや~」と美由紀さんの大好物の鶏の唐揚げを届けてくれたとか。「小さな生命のために、地域のみんなで子づくりをしているみたいでしょう。ありがたくて、涙が出ますよ。子どもが生まれたら、保育所いらずでしょ。逆に、私らに子守の順番回ってくるんかなぁって心配されています」と。
facebookのそのあけすけな書きっぷりに、プライバシーは大丈夫なのだろうかとハラハラしていましたが、「嬉しい気持ちも、辛い気持ちも、全部丸ごと伝えているから、みんなが助けてくれる」という美由紀流の広報術はアッパレです。ある意味、地域コミュニティーの究極の姿なのかもしれません。
さあ、これから向日市でやりたい地域活動は何ですか?
「まずは、向日市を自転車のメッカにして、向日町競輪場を市民の活動の拠点にしたいですね」と。 競輪場について語る時、それはそれは雄弁になる美由紀さんです。曰く、競輪は、ギャンブルという以前に、柔道に並ぶ日本発祥のオリンピック種目。立派なスポーツなんだとか。さらに、道の狭い向日市ですから、自転車の移動にはもってこい。自転車が増えれば、自家用車の使用を控えることもできるでしょうから、サイクリング人口を増やしていくことで交通渋滞の解消にもなり、市民の健康の増進にも役立つはずだと。KARA-1や向日市まつりなどの会場としても親しまれている競輪場ですが、もっともっと日常づかいの市民の憩いの広場に出来るはずだと。
さらに、市民活動の拠点づくりにも熱い思いがあるようです。長岡京市にある市民活動サポートセンターのように、何か活動を始めたい人に情報を提供し、思いを同じくする人をつなげるような拠点が向日市にも必要だと。新しいマンションの建築が急ピッチで進む向日市ですから、「新しい住民と昔から暮らす人たちをつなぐ仕組みも必要ですよ…」とも。
向日市で一番元気な女性、松本美由紀さんは、この先、ママになってもおばあちゃんになっても、ずっとこのまま、元気にまちを駆け巡っているに違いありません。
(松野敬子)
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