家族の歴史を残すということ
写真のあり様は、この十年ですっかり様変わりしました。今や主流は写メしてシェア。現像という紙ベースの写真を手にすることは、ほとんどなくなったように思います。そんな時代に、フィルム写真にこだわるカメラマンが竹内靖博(たけうちやすひろ)さんです。
長岡京市花山の閑静な住宅街の一角に、写真スタジオ スツール(STU:L)があります。 「フィルムカメラで撮影し、オリジナルアルバムに生写真を手貼りする」という昭和なスタイルがしっくりする、おしゃれでどこか懐かしい小さなスタジオです。ディスプレイされている成人式や結婚式、そして親子が微笑むアルバムを手に取ると、幸せな時間がそこにぎゅっと詰まっているようで、見ている私まで自然に笑顔になってゆきます。
「いいでしょ、この笑顔」と、公園の滑り台で、はじけるような笑顔の家族写真を指差す靖博さん。スツールでは、七五三や成人式といった撮影以外にも、ごくごく日常のスナップ写真を撮りに来られる方が多いといいます。そして、そういった写真がやっぱり違う! こんな幸せな笑顔を、家族の歴史として残すことができれば、家族の形も変わってくるのかもしれません。
36枚、それっきりだからプロの技
デジタルカメラで撮影するカメラマンは、1回の撮影で500枚は撮るともいわれています。靖博さんは、フィルム1本、たったの36枚、それっきりです。だからこそ、1枚もミスはしないというプロの仕事なのです。
プロとなって 今年で16年になる靖博さんですが、そのきっかけがまた素敵です。
「ごく普通のサラリーマンだったんだけど、ぼくは『何か』自分にしかできないことをやるはずだ! って、妙な自信があったんですよ」と。32歳の時のお話。そして、「何か」がカメラマンだったのですが、きっかけは自身の結婚写真の撮影でした。奥様の佳代(かよ)さんは、「写真はいいものを残したい」という希望でした。そして、運命の撮影日。カメラマンが被写体である自分たちに向かう姿に「魅入られた」という靖博さん。それから、彼の撮影に同行すること5回。教えてもらうわけでもなく、ただ思うがままに撮っていたところ、6回目の結婚式撮影で「任せるから、撮ってみる?」と。こうして、無謀と言われつつ33歳にして、カメラマン人生をスタート。今や、竹内さんの仕事ぶりは口コミで広がり、近畿全般から、時には愛知や四国からも撮影に来られます。
形があるから思い出になるんです
スツールのもう一つの人気は、スペシャルなアルバムです。京都の老舗製本所製の20頁綴りのアルバムに、靖博さんが丁寧に手貼りしてくれます。この満面の笑顔の横に、少し照れた横顔…、36枚の中には、風景もあればお花のアップだってあります。でも、そのショットもこの日の物語には欠かせないアイテムなのだと、アルバムになると見えてくるものです。写真って、撮影しただけでは「記録」であっても、けっして「思い出」にはならないんだと教えられた気がしました。
「そう、デジタルでもいいから、先ずは、紙に焼きましょう! 写真を思い出にしてあげてくださいね」と。佳代さんからのアドバイスでした。